【赤い花シリーズ③】吸血鬼の繁栄について
前回の記事はこちら。
今回は「赤い花」シリーズに登場する吸血鬼たちの繁栄について書いていきます。
「赤い花」シリーズの主人公は基本的に〈赤い花〉を受け継いだ魔女たちとなっていますが、『U‐Rei』のヒロイン枠でもある霊は吸血鬼です。
「赤い花」シリーズに登場している吸血鬼には大きく分けて3パターンあり、通常の生物のように繁栄して老いを迎えるタイプの華冑(かちゅう)、不老型のマテリアル、不老不死の屍蝋(しろう)にわけられます。
華冑は人間たちと同じように誕生し、同じように寿命を迎える生まれながらの吸血鬼たちです。寿命があるため違和感なく人間の間に溶け込めるほか、人を魅了する力を存分に使えるため、社会的に成功する者が多いようです。
『U‐Rei』の作中で霊が警戒している純血家系の二家、「銀箔」と「舞鶴」はいずれも華冑に分類される者たちで、乙女椿国では神の使い、あるいは神に仕える豪族として祀られていた歴史もありました。
寿命があるためかエネルギッシュかつアグレッシブな者が多く、吸血鬼としての魔性と人間たちの中に溶け込みやすい性格のバランスがいいため、いつの時代も安定して成功し続けています。
人間たちに混ざって国家を動かし――または従い、結婚を経て子どもを産むことが多いようです。また吸血鬼であるという秘密を守るため、その縁組は基本的に華冑の家系同士で行われます。
マテリアルは不老型の吸血鬼です。華冑のように生まれながらの吸血鬼ですが、第二次性徴後、性成熟が完了するとそこで老いが止まります。
そのため、非常に長生きする可能性もある種族ですが、不死ではないため事故や事件に巻き込まれて死亡する可能性はあり、増えすぎるということはないようです。
寿命がないせいか怠惰でだらしないタイプの者が多いようですが、責任感はあります。積極的なタイプではありませんが、人間たちの社会の影で幽鬼のように暮らしています。
人の血を飲まないと生きていけないため、夜道で手ごろな人間を襲うという捕食をします。大半は死ぬほどは吸わず、その後の記憶を消して襲われたことすら思い出せないようにするアフターケアを欠かしませんが、中には獲物を殺す快感に目覚めてしまうマテリアルもいて、魔物や魔族界でたびたび問題になっています。
『U‐Rei』で登場する霊や幻、そして幽の父である天などはマテリアルですが、幽の存在を頼りにしている霊やマナーを守って捕食をする幻とは違い、天は獲物を殺すことも厭わないようです。
ちなみにマテリアルの名称は、錬金術師たちが名付けました。成長すると非常に危険なマテリアルですが、知恵や力を付ける前の子ども時代は搾取されることも多く、とくにその体は錬金術の素材として好まれた歴史があります。そうした差別や暴力から身を守るため、リリウム教会にひそかに助けを求め、教会を影から支える聖戦士になった者もいました。
『AMARYLLIS』に登場するマテリアルの戦士、エスカやペトルはそんな経緯のある人物です。(エスカは下心もあり、そうした風潮を利用してリリウム戦士になりました)
華冑とマテリアルは生まれながらの吸血鬼ですが、その判定は魔女の心臓の判定とは別に行われます。
魔女の心臓は伴性遺伝でしたが、吸血鬼かどうかは常染色体遺伝であり、華冑とマテリアルを決定する優性の因子がそれぞれ存在し、華冑は優性でマテリアルは不完全優性となっています。
華冑とマテリアル間の優先度は華冑>マテリアルとなっており、ひとつでも華冑の因子があると子どもは必ず華冑となります。ですが、マテリアルの因子は受け継がれていく可能性があるため、華冑同士であっても後の世代でマテリアルが誕生する可能性は大いにあります。その場合、一族からは良くも悪くも特別視されてしまうようです。
その他にも、吸血鬼化を防止する遺伝子もあります。こちらは華冑やマテリアルの因子に対して最優先され、この遺伝子を持つ者たちは、ただの人間として誕生します。(ただし、実際にはダンピールとして育てられるようです。)
ここで、幽と霊の組み合わせを整理してみます。
霊はマグノリア人の祖父、蘭花人の祖母、ローザ人の祖母、乙女椿人の祖母という祖先をもっていますが、いずれもマテリアルです。
華冑の因子をA、マテリアルの因子をB、吸血鬼化防止の遺伝子をCとすると、マテリアルは不完全優性であるので、aaBBという因子であることが推測され、さらにマテリアルとして生まれているので㏄であることも確定しています。
一方、幽はマテリアルの父と魔女の母から生まれています。
幽の父は霊と同じくaaBBccとなりますが、幽の母は吸血鬼としての特徴を一切もっていませんが、CCかCcか㏄かは不明です。
幽はダンピールですが、マテリアルとしての力は殆ど持っていません。
しかし、霊の魔法に囚われないという抵抗力はしっかりと持っているため、マテリアルの因子を受け継いでいるかつ、吸血鬼化防止の因子がきちんと効いていない可能性が高いです。
その上で、華冑の特徴は一切もっていないので、aaB×ccであることが推察されます。
これを踏まえたうえで、魔女の心臓の項目でやった幽×霊の子の判定をしてみると、抑制因子もないため、マテリアルとして誕生する可能性が非常に高いことが判ります。
幽のマテリアルの遺伝子がもしもホモ型であれば、マテリアル率は100%になります。
この遺伝は魔女の心臓とは別の遺伝となるので、〈赤い花〉を持つマテリアルになる可能性も高いです。この場合、吸血鬼の力や性を併せ持つ魔女になると思います。
さて、最後に屍蝋についても説明します。
『U-Rei』では鬼瓦という集団の噂が登場した他、霊の影の世界に囚われる夜蝶という屍蝋の女性が登場しました。
彼らは華冑やマテリアルのように生まれながらの吸血鬼ではなく、後天的に吸血鬼になった(されてしまった)者たちです。
自然繁殖は出来ませんが不老不死であり、身体が損壊しても時間をかけて復活するので、ひとたび悪人になってしまうととても厄介な存在です。彼らを止めるには生け捕りにするしかなく、その時に利用されるのが魔術師たちの開発した専用の檻、魔女(魔人)たちの隷従の魔法、マテリアルの捕捉や使役の契約などがあげられます。
屍蝋が仲間を増やす際は、自らが選んだ人物を捕食するときのように捕らえ、相手の同意なしに仲間にしてしまいます。その際には多大なエネルギーがいるようで、滅多なことでは仲間を作らないようです。
屍蝋になるとそれまでの身体の機能は一部失われ、塵への嫌悪がなくなるほか、マテリアルの使役の魔術への抵抗も失うなど、魔物とほぼ変わらない存在にシフトします。そのため、生まれながらではなくとも魔物として扱われるのです。
つまり屍蝋になるということは、一度死んで生まれ変わるようなものであるということです。長い時を生きているために生きることに飽き、人間に戻る方法を捜している屍蝋もいるようですが、その方法はまだ見つかっていません。
0コメント