第4回 生物の歴史を彷彿とさせる不思議な話~『動物人間の創造-オカノガン族』
今回も前回に続いて全ての母にまつわる話のようです。
ただ、ここで新しくコヨーテが登場しました。アメリカ先住民の神話伝説で頻繁に登場するトリックスターでもありますね。
日本昔話にとってのキツネやタヌキみたいな存在だったと思われます。神聖視されているあたり、キツネが近いかな。
前回は創造者にクロスクルベーという名前がついていましたが、今回の創造主らしきものは〈古い者〉とだけ語られています。これはたぶん翻訳の関係なのでしょうけれど、要するに現地の人々の言語でもシンプルな名前を持っていたのでしょうね。
日本語でかっこよく言うならば、古(いにしえ)の者でしょうか。
まあともかく、作中では〈古い者〉が何者なのかは語られていません。世界を創ったことは確かなようで、大地を創る際に人間の女を選んで彼女の形を変えてしまったとのことでした。
なので、人々は彼女の上で生活をしているのだと。
そういえば、多神教の世界では大地は女神のイメージがありますね。ギリシャ神話のガイアのイメージが強いのかもしれませんが。
ともあれ、生き物の暮らす舞台が整うと、さらに〈古い者〉は彼女の肉を集めて古代人をつくります。この古代人の設定もなかなか面白くて、人間も動物も分かれていなかったようです。で、個人的に面白いと思ったのは、シカだけは例外だったと言われている点でした。
オカノガン族にとってシカは大切な食糧だったのでしょうね。なので、いかに昔の話とはいっても、シカもまた人間だったことにするとちょっと気が引けたのかなとか想像しちゃいます。
さて、〈古い者〉は古代人を生み出しただけでなく、全ての生き物を男女に分けたりするのですが、その全てが母の一部であるのだと語っています。
よくアメリカ先住民の言葉には「みなが子宮で繋がっている」というものがありますが、恐らくこれもまた同じような精神なのでしょうね。
その後、古代は怪物がいたり、古代人たちが誰が人間で誰が鹿なのかを知らずに共食いをしていたりしたので、〈古い者〉はついに怪物を討伐し、〈コヨーテ〉を使わして知恵を授けたと締めくくられていました。
このお話、先に紹介したものよりもとても短い上に、深く考えると物語の統一性がないように感じるものなのですが、その一方で、何だか古代のロマンを思わせる不思議な魅力がありました。
怪物という単語が出ましたが、これってひょっとして化石で残った恐竜や絶滅した動物たちのことなのではないかとか、古代人という存在が、現代人とは違う種類の人類を思わせるとかそういう魅力です。
つまり、生物の歴史を感じさせる物語であることが、何だか不思議で印象的でした。
ところで、〈コヨーテ〉は物語を引っ掻き回す存在として登場することも多いのですが、ここでは人々に知恵を授ける存在ですね。
そこもまたトリックスターらしくて好きです。
◆今回のメモ
・古い者
創造主を思わせる存在。心の中で「古(いにしえ)の者」と置き換えながら読むとなかなか厨二感あってよかった。
・全ての母
大地そのものにされた人間の女性。たぶん拒否権はなかったのだろう。
・古代人
人間であり動物であったという存在。今の人間と変わらない存在から、四足歩行のものや怪物なんかもいて、共食いまでしていたらしい。ちなみにシカは仲間ではない。
・コヨーテ
ここでは人間たちに知恵を授ける存在。
『アメリカ先住民の神話伝説』(R.アードス、A.オルティス編 松浦俊輔、西脇和子、岡崎晴美ほか訳 1997 青土社)
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