第3回 自己犠牲と愛を尊ぶ精神~『玉蜀黍の母-ペノブスコット族』

世界の始まりを語る話という点では前回、前々回と一緒ですが、こちらは全ての母親にスポットを当てたお話でした。

前回はアメリカ先住民の人々にとってバッファローがどれだけ大事な存在だったのかが窺えましたが、こちらは玉蜀黍(トウモロコシ)の有難みについて語られています。

物語のはじめに創造者クロスクルベーという存在が語られています。のちの伯父と呼ばれるので、おそらく男性のようです。

その肩書の通り、世界を作った存在のようですが、最初の少年や最初の少女は、それぞれ創造者の手で直接作られたわけではなく、創造者の生みだした自然の中から誕生しているようでした。


最初に生まれたのは少年で、クロスクルベーの創造を手伝ったようですが、そうやって豊かになった世界から誕生したのが少女だということになっていました。

つまり、クロスクルベーや最初の男が女をつくったわけではなく、神秘的な作用が最初の女を生み出したということらしいです。

この辺り、旧約聖書などの創造説とは似て非なる個性があるなと感じました。アメリカ先住民たち――とくにこれを語っていたというペノブスコット族の自然世界と人間の立ち位置に関する価値観が窺えます。


その後、少年と少女は結婚し、子孫が繁栄していくのですが、クロスクルベーは彼らに生きる上で大事な知識などを教えると、北部へと渡ってしまいます。これを語っている今はいない理由みたいなものなんでしょうね。

さて、人間はこうして繁栄していくのですが、ひとが増えていくとなくなっていくのが食料です。やがて彼らは飢えに苦しむのですが、そのとき、すべての母となった少女は夫に皆が生き延びるために自分を殺すようにと言い出します。

そんなことが出来るはずもない夫なのですが、隠居したクロスクルベーに相談したところ、彼女のいうことを聞きなさいと言われ、なくなく言われた通りにするわけですね。

で、その亡骸を大地のあちらこちらに引きずり回すのですが、この描写が今の価値観で読むとなかなか残酷でまさに昔話って感じでした。


まあともかく、そうして全ての母親の肉体が大地に行き渡り、その肉や骨をもとに誕生したのがトウモロコシとタバコだったという結末に至りました。

最初の母親の愛で生まれたものだから、これを食べるときや吸う時は感謝を忘れてはいけないというお話です。


タバコがアメリカ先住民たちにとって大事なものだったのは分かっていましたが、トウモロコシと同じくらい尊ばれていたのは印象深いものがありますね。

また、自己犠牲を尊ぶと言うと、昨日公開したバッファローのお話にも通じるものを感じます。

自分を犠牲にして誰かを救うというお話は、昨日も紹介したこちらのメディスンカードの解説書にありました。

ターキーのメディスンなのですが「無償の恵み」を意味します。

この解説でもアメリカ先住民たちが自己犠牲的な愛を尊んでいたことが示されており、自分を省みず人を助けることを称賛する尊さが説かれていました。

弱きものを助け、足りないものを補い合って生きていくことで、厳しい自然を乗り越えてきたからこそなのでしょうね。

私はついつい損得で物事を考えてしまいがちなのですが、そんな自分自身の性格はともあれ、創作における登場人物作りについては、こういう精神が尊ばれてきた背景や、精神構造などを探求していくのも悪くないと感じました。


◆今回のメモ

・創造者クロスクルベー

たぶん世界を作った存在なのだと思う。人間にとっての伯父と言われているので、男性と思われる。世界の北部にいるらしい。

・玉蜀黍の母

クロスクルベーと最初の少年が豊かにした世界から生まれてきた少女。愛そのものであり、子どもたちのために自ら死を選び、その肉体からトウモロコシやタバコが生まれたのだとか。

『アメリカ先住民の神話伝説』(R.アードス、A.オルティス編 松浦俊輔、西脇和子、岡崎晴美ほか訳 1997 青土社)