第6回 人々の記憶が残されているかもしれないお話~『力をもつ少年‐セネカ族』

前回は不思議な産まれ方をした少年が主人公の話でしたが、今回もまた不思議な力を持って誕生した少年が主役のお話です。

翻訳の関係なのかは分かりませんが、やたら血の気の多い少年が父親に行ってはいけないと言われる場所に行っては、戦利品を持ち帰り続けるという内容でした。

力を持つ少年はとても小さいらしく、日本で言う一寸法師みたいな姿を想像しながら読んでいました。

各地で悪者を討伐して戦利品を持ち帰るというお話はわりとあると思うのですが、彼の力の犠牲になる相手の中には、単なる怪物だけではなく力のなさそうな相手も含まれていて、容赦ないなというのが率直な感想でした。


ともあれ、このお話で興味深かったのは、注釈でした。

セネカ族というのはイロコイ族(イロコイ連邦)と呼ばれるアメリカ先住民たちグループの主要メンバーなのですが、物語最後の注釈によれば、イロコイ族の語るお話のなかでは、母国から東の美しい土地に移ったという内容がよく出てくるそうです。


このお話の結末であるボール遊びも興味深いですね。

〈狼〉族や〈熊〉族といった複数の部族が登場するのですが、土地を巡る戦いの歴史があったのか、話し合いがあったのか、色々と想像してしまい、口伝の面白さを感じました。

上の世代が下の世代に話して継承していく。それぞれの瞬間にそれぞれのやり取りがありながら、ちょっとずつ変化しながらこの本にまとめられるまで伝わってきたのかなと思うとなかなかロマンを感じたのです。


ちょっと分野は違いますが、学生の頃に昔ながらの子どもたちの遊びの多くは、上の世代の子どもから下の世代の子どもへと継承されていったものであることを学びました。

しかし、少子化や塾通いなどで世代の違う子ども同士が触れ合う機会がなくなっていくにつれ、こうした継承の機会も減っていき、昔ながらの地域の遊びが途絶えていってしまっているというお話です。

もう十年以上前に聞いた話なので今の子どもたちがどんな環境で子ども時代を過ごしているのかは分からないのですが、意外なところに大事なプロセスが隠れているのだなと思ったものでした。


さて、この神話や伝説の継承もまた、自分たちのルーツのヒントが隠されているものなのかもしれません。

もちろん、一からすべて誰かの思い付きという場合もあるでしょうけれど、思い付きだとしてもその素材になるのはその当時のその人の周囲の環境だったりするわけですし、それを継承して語り継いできた人たちの生活も滲んでいるはずです。

そう思うと、何だか黎明館などで郷土資料を閲覧したくなってきますね。


◆今回のメモ

・力を持つ少年

母親が命と引き換えに産み落としたとても小さな男の子。父親からは長くは生きられないと判断されて、捨てられてしまうけれど、兄に拾われて命拾いをする。

その後、父親の言いつけをことごとく破った末に、人間よりも強そうなあらゆる怪物的存在を容赦なく倒し、戦利品を次々に持ち帰る。

最後は平和的なボール遊びで東の大地を手に入れ、父親を首長にした。

・雷の夫婦

息子と娘がいたが、少年によって一家全員殺されてしまう。

・石まとい

ストーンコートともいうらしい。大きな犬を飼っている。少年と色々ゲームをするが、最期は事故死してしまう。

少年とのやり取りがなかなかシュール。

・巨頭男

さいころでチンチロして負けた相手の首を狩るとても悪趣味なギャンブラー。少年のイカサマ染みた力によって敗北し、自分の首を盗られることに。

・〈狼〉族、〈熊〉族、〈鷲〉族、〈亀〉族、〈ビーバー〉族

東の土地でボール遊びをしていた部族たち。少年は〈狼〉族と〈熊〉族の味方となる。

『アメリカ先住民の神話伝説』(R.アードス、A.オルティス編 松浦俊輔、西脇和子、岡崎晴美ほか訳 1997 青土社)