第7回 創造神も赤ちゃんにはお手上げ~『グルスキャップと赤ん坊‐アルゴンキン族』
今回は何だか微笑ましい話でした。
学生の頃は子どもの成長や心身の発達について学んでいたのですが、子育てというのは本当に理想だけでは片付かないものがあり、どんな理屈を前にしても子どもには敵わないのだなと深く感じたことがありました。
お陰で子無しであっても親子連れや駄々っ子に手を焼く親御さんなどに寛容な気持ちになれたものですが、このお話もまたそんな子育て――とくに赤ちゃんの無敵さが込められているように感じました。
物語の主人公はグルスキャップという神様です。
アルゴンキン族に含まれる多くの部族が信仰する神様で、最初の人間かつ創造神であり、英雄であり、トリックスターでもあったと書かれていました。
つまりは彼らにとって親しみ深いヒーローでもあったのでしょうね。
グルスキャップは色んな力を持っていたらしく、魔術師や悪魔などあらゆる存在を支配するほどの権力者でもありました。
なので、自分こそが世の中で一番偉いと思っていたのですが、そこへ女性がワシスという赤ん坊の存在を教えます。
意図的かどうかはともかく、彼女に半ば煽られるかたちでグルスキャップはこのワシスという赤ん坊を手懐けようとするのですが、どんな魔法も赤ん坊には通用せず、嫌になって涙目敗走するという話でした。
物語によれば、赤ちゃんが「ぐーぐー」と言っている時は、グルスキャップに勝ったときを思い出しているそうです。
まあつまり、そういうお話が誕生するくらい、赤ちゃんに手を焼く大人が多かったのかもしれませんね。今だって子どもについて色々と分かってきていても尚、正解のない育児に悩む人々は絶えないわけですし。
そんな赤ちゃんですが、英雄であるグルスキャップでさえも敗北するほどの存在なのだから仕方ないという、昔々の親御さんたちの諦めのようなものが込められているのかもしれませんね。
◆今回のメモ
・グルスキャップ
最初の人間であり、創造神であり、ヒーローであり、トリックスターでもある存在。あらゆる強敵を支配するも、赤ん坊には負けてしまう。
・ケワウック族、メデコリン族、バモラ
それぞれグルスキャップが支配していた種族たち。ケワウック族は巨人、メデコリン族は魔術師を出し抜いていたらしい部族、バモラは夜の悪魔らしい。
・ワシス
赤ちゃん。泣いたり笑ったりする。
『アメリカ先住民の神話伝説』(R.アードス、A.オルティス編 松浦俊輔、西脇和子、岡崎晴美ほか訳 1997 青土社)
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