第16回 アメリカ先住民たちにとっての馬という存在~『孤児の男の子とエルク・ドッグ‐ブラックフット族』

エルク・ドッグというのは、馬のことらしいです。

シートン動物記を幼い頃に読んだ印象が中途半端に残っていたためか、野生馬といえばアメリカ、アメリカといえば野生馬っていうイメージがすっかりあったのですが、もともとアメリカには馬はおらず、16世紀半ばにスペイン人たちが持ち込んで来たそうです。

その後、先住民たちにも馬は渡り、すっかり暮らしの支えとなっていたそうです。


馬を表す単語がなかった為、日本ではヘラジカとよばれるエルクやムースと、それまで先住民たちにとっての足であった犬を合わせて、エルク・ドッグやムース・ドッグと呼ばれたとのことでした。

ただし、ここで語られていたのは、そういう正確な歴史のお話ではなく、おそらく「馬っていつからいるの?」という子どもたちの疑問に大人が説明する感じのお話でした。


ざっくり説明すると、ある勇敢な孤児が自分を拾ってくれた養父に恩返しをするべく、湖周辺に暮らしているという不思議な力を持つ一族から分けてもらったという内容です。

この話で伝わる馬の描写から、いかにその速さや便利さに驚いたかが伝わってきました。

馬は他にも精霊犬や聖なる犬という名称があるようで、それだけアメリカ先住民たちの暮らしを支えてくれたことが窺えます。


移民の到来はアメリカ先住民に対して疫病や生活苦をもたらしたことは他の資料を読んでも歴然としていますが、その何もかもがマイナスだったわけじゃないのだなと感じたのがこの馬にまつわるエピソードでした。

『アメリカ先住民の神話伝説』(R.アードス、A.オルティス編 松浦俊輔、西脇和子、岡崎晴美ほか訳 1997 青土社)