『蝶々たちのエレジィ』創作日記~妖精たちの血統
『蝶々たちのエレジィ』(小説家になろうの作品ページに飛びます)
かなり間が空きましたが、久しぶりに創作日記を書こうと思います。
『Berry』はあのあと2020年の12月に完結し、ネット小説大賞では一次通過で夢を見させてもらったりもしました。
残念ながら二次で落選してしまったので現在は別の賞に応募していますが、もしこの先、色々と感じることがあったら書き直すこともあるかもしれません。
さて、本日は『Berry』ではなく今年に入ってから投稿した新しい作品について。
タイトルは『蝶々たちのエレジィ』で、人間ではなく妖精に分類される種族の少女が主人公となっています。
主人公の名前はマドレーヌで、恋人の名前はビスキュイ。マドレーヌの主人である人間の名前がフィナンシエ、ビスキュイの主人がアマンディーヌ……。
勘のいい方ならお分かりかと思いますが、全員フランス語のお菓子やその材料の名前に統一しています。
この作品は去年の夏ごろに投稿した『花泥棒カチューシャ』(小説家になろうの作品ページに飛びます)と同一世界の物語として書いています。
人間に支配される妖精たちの物語なのですが、妖精たちを描くにあたってかなり参考にしているのがサラブレッドだったりします。
今回はこの妖精たちの血統について書き残しておきます。
サラブレッドは父系を辿るサイアーラインと母系を辿るファミリーラインでざっくり管理されていますが、それ以外の血筋もまた結構しっかりと記録されています。
当たり前ですが生き物は性染色体だけで出来ているわけではないので、子孫たちは父系と母系以外の先祖からも影響をがっつり受けているものです。
しかしながら、やっぱり注目してしまうのがサイアーラインであり、ファミリーラインであるのでしょう。
種牡馬は年に数百頭の子を残せますし、母馬はX染色体やミトコンドリアといった生命活動に欠かせない情報を伝えますからね。
この作品の妖精たちは競走馬ではありませんが、やはり父系と母系はかなり重要視されていて、マドレーヌたちのような良血蝶々と呼ばれる品種は、父系も母系も辿れば必ず最後の女王ミルティーユにたどり着くように血統管理されています。
母系はミルティーユの三人の娘フルール、ファリーヌ、ペシュに。父系はミルティーユの息子であるエクレールに、といった具合です。
ちなみに娘たちの父親もはっきりしています。
フルールの父親は、戦利品として連れ帰られた蝶の妖精の男性のうち、従順さを競うテストを受けさせられて最後までクリアした者。
ファリーヌの父親は、人間たちが勝者と分かってすぐ、生き抜くための戦術として愛嬌さで人間たちに気に入られた蝶の青年。
そしてペシュの父親は、蝶の王国が滅ぶ際に見せしめとしてミルティーユの母親と一緒に処刑された一角獣(騎士)の一番弟子でした。
それぞれの性格や想いは娘たちにしっかり遺伝し、その後二百年の間、子々孫々に伝わっていっています。
ですが、全ての良血蝶々の父系祖先となったエクレールは特殊です。
彼は良血蝶々たちが蝶の翅を失ってしまった原因でもあるのですが、その父親については不明のままなのです。
母親はミルティーユではっきりしているのに、どうしてエクレールだけ父親の記録が欠落しているのか……。
この辺りについては、作中で語るつもりのない部分なので、読者の方々に自由に想像していただければと思います。
さてもう一つ、マドレーヌたちの特徴である菫色の目ですが、こちらも人間たちが狙って遺伝させています。
良血蝶々の殆どは菫色の目を持っているのですが、人間たちによる血統管理が始まった当初からそうであったのではなく、父系と母系が狭まっていく中で統一されていったという感じです。
なので、野良蝶々には様々な色の目があります。
ちなみにフランボワーズとクレモンティーヌという女王の末裔と呼ばれる妖精たちは、野良であってもマドレーヌと同じような菫色の目と栗色の髪を持っていますが、これはミルティーユの遺伝です。
良血妖精たちのスタンダードは全てミルティーユの血の証でもあるのです。
ところで、ビスキュイは目の色こそミルティーユ譲りの菫色ですが、髪色は銀髪です。年齢と共にだんだん白くなっていくこの髪は馬の毛色の芦毛と同じメカニズムです。つまりは若白髪ですね。
この髪色は蝶の妖精たちが自分たちの王国で暮らしていた時代から続いていて、戦利品として連れ帰られてきたジブレという名前の一人の少女から広がっています。
遺伝の仕組みは馬の芦毛と同じで、ジブレの母系は少なくとも良血品種では途絶えてしまいましたが(野良では残っているかも?)、銀髪の親から銀髪の子という具合に遺伝していき、その特徴が残りました。
芦毛と同じく顕性(優性)遺伝なので人間たちの計画通り、マドレーヌとビスキュイが子どもを残すとしたら、半々くらいの確率で子どもも銀髪になります。
栗色の髪の方が女王の血の証として安定した人気があるのですが、だんだんと雪色になっていく銀髪もまたこの世界の人間たちの間では気に入られている……という感じです。
最後にマドレーヌたちが失ってしまった翅の色や大きさについて。
蝶の妖精といっても、この作品では蝶のような翅を持つ亜人くらいの意味で、実際のモンシロチョウやアゲハチョウなどが擬人化されているわけではありません。
翅の色もまた馬の毛色や血液型くらいの意味合いで、赤色の翅をもつ蝶の妖精から白い翅を持つ蝶の妖精が生まれる等ということもあります。
一応、顕性・潜性も考えていて、ミルティーユが持っていた白い翅は潜性で、娘たちの翅色は父親からの遺伝です。
ノワゼットのような黒い翅は顕性ですが、こちらは黒い髪とセットで遺伝します。なので、ルリジューズも翅があるならば恐らく黒いはずです。
青い目は修道蝶々の血統管理をしていた人間たちが固定化させただけで、自然に任せるとノワゼットのようにヘーゼルなど青とは少し違う色も現れます。
フランボワーズとクレモンティーヌの姉妹の場合はちょっと特殊で、母親は青と赤と白の入った三色の翅を持っていたのですが、このうち赤と青が綺麗に分かれたという感じです。
翅の大きさや有無は、エクレールの血がどれだけ濃いかによります。
マドレーヌとビスキュイのような完全翅無しの両親から翅無しの子が生まれる確率はほぼ100%。
しかし、片親がフランボワーズたちのようにしっかりとした翅を持っている場合は、完全翅有り、完全翅無し、不完全翅有りといった三パターンが誕生します。
不完全翅有りはノワゼットのように形はあるけれど小ぶりという感じで、このノワゼットが翅無しの妖精との間に子を残すとグリヨットのようにさらに未熟な翅の子が生まれます。
グリヨットたちのような野良妖精たちも、どこかでエクレールの血の影響を受けている者が多く、その影響の度合いが翅の大きさで分かるようになっています。
フランボワーズとクレモンティーヌの場合は完璧な蝶の翅を持っていますが、これは野良妖精たちが望んだ結果、ペシュの母系から早々に野良へと流れた先祖を持つ姉妹の母親が、なるべくエクレールの血の薄い蝶の男性を相手に選んだことに起因しています。
ここも作中では出さないことにしましたが、ペシュは野良妖精たちにとって人間たちに立ち向かった英雄で、その直系であるフランボワーズとクレモンティーヌは野良妖精にとっては正当な女王に等しいのです。
また、野良妖精たちはマドレーヌたちに語りませんが、エクレールの父親についてある噂を信じていたりします。それが、エクレールの父親が実は人間であるというもの。
突然変異の翅無しが何故生まれたのか、それは、翅を持たない人間の血が混ざったからだという噂がいつの頃からか流れ始め、そのせいか野良たちの間ではエクレールの血は人間の支配を連想してしまうようになっているのです。
この噂が本当かどうかは、ご想像にお任せします。
ともあれ、この噂の存在により、野良妖精たちはエクレールの血をほぼ感じないフランボワーズとクレモンティーヌに強い想いを抱いており、ふたりもその想いに答える形で女王のように振舞っているというわけです。
というわけで、長くなってしまったので今回はこの辺で。
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