第20回 失敗を経て人は少し成長する『ヴィジョン・クエスト‐ブルーレ・スー族』
ヴィジョン・クエストというのは、ひと言で述べると苦行のようなものです。
ヴィジョン・ピットと呼ばれる穴の中で四日間過ごし、飲まず食わずで一人きりでこもり、精霊のお告げを受けるという儀式で、苦しみの果てに何かしらの報いがあるものとされているようです。
しかし、この内容はちょっと違います。
ある若者が自分が特別だと信じてヴィジョン・クエストに挑戦するのですが、精霊たちの試練に苦しみ震えた挙句、啓示らしい啓示を何も得られないまますごすご戻るというお話でした。
プライドがめっきりへし折られるわけですが、そんな若者にメディスン・マンのひとりが「一人で苦しみもがいただけでは何も得られない。啓示は謙虚さや忍耐などから生まれるものだ。それを知れただけでも大きい」というようなことを諭すところでお話は終わります。
これを読んだとき、さまざまな言葉が頭をよぎりました。「無知の知」「形骸」などです。けれど、もっとも相応しいなと感じたのは「失敗は成功の基」かもしれません。
知ろうという謙虚さや忍耐、知恵がなくては意味がない。どんなに辛い経験があっても、その中身次第では大きな発見はないかもしれません。
ただ、その失敗体験が全く意味のないものだったかといえば、そうでもないと言えるのがこのお話でしょう。
うまく走れたとしても、派手に転んでしまったとしても、人はそれぞれ得られるものが何かしらある。
恥ずかしい想いをしても、思っていた結果でなかったとしても、そこで得た経験、思い知った事実が自分自身を少しだけ成長させてくれるものですからね。
そんな感想を抱いたお話でした。
『アメリカ先住民の神話伝説』(R.アードス、A.オルティス編 松浦俊輔、西脇和子、岡崎晴美ほか訳 1997 青土社)
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